Revueの日記

Revueの日記

歌詞の解釈やライブレビューなど、好きな音楽の話を主に書いていきます。Mr.Childrenが中心になると思います。

大森靖子=ロッキー・バルボア説 音楽を捨てよ、そして音楽へ

 

個人的にもう、マックスの褒め言葉です。大森靖子はロッキーだ。

 

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彼女の音楽性とか今っぽいスター性についてはまた別の機会に書きます。今回は彼女の音楽への向き合い方がカッケーという話です。

 

andymoriの「クラブナイト」も、ミスチルの「声」も、音楽の「魔法」に酔おうとする曲でした。共通するのは「クラブナイト」の出発点が冷たい部屋であり、「声」には街の雑音が流れていたこと。

 

どんなに陶酔したって、曲が終わればどうしようもない日常が、現実が待っているわけです。魔法が解けた瞬間のギャップはどこまでも残酷。良い大人が何が魔法だよ、という。

 

アイドルソングを、JーPOPを浴びるように聴いてきたであろう大森さんも、こうしたポップミュージックの裏側にあるしんどさにすごく自覚的なんだと思います。

 

じゃあ残酷なポップスを、なぜわざわざ歌わなくちゃいけないのか。そういう歌です。

 

 

【音楽を捨てよ、そして音楽へ】

魔法に甘えないファイティングソング

脱法ハーブ 握手会 風営法 放射能
ダサい ダンス ダウンロード
って言ったら負けのマジカルミュージック

この曲のメインテーマ。現実の毒々しいフレーズ。この言葉は、音楽の魔法にかかるためには言ったら負けなんだと自分に言い聞かせている。

 

君話してたこと もっと大事だった気がするんだ
お天気だってよかったし お財布だって空じゃなかった
身体検査の前の日に 下剤を呑んで軽くなって
ピョンピョン跳ねたらイジメにあった
たのしそうなやつムカつくんやって
画用紙一面の真っ赤な海もブルーにしろって教育された

友達になりたい子ばっかなんでサヨナラも言わずにいちぬけた

現実の鋭い言葉よりも、素直な自分の感覚の方がしっくりくる。

だけど確実に周囲とズレていってしまう。同化できない感覚、同化させられる感覚。

 

面白いこと 本当のこと
愛してるひと 普通のこと
なかったことにされちゃうよ
なかったことにされちゃうよ

同化させられちゃったら、このままでは、自分の抱いてきた感覚が消えてしまう。

 

面白いこと 本当のこと
愛してるひと 普通のこと
言わなくても伝わるマジカルミュージック

だから、そうした感覚を言葉にしなくても分かってくれる、伝えてくれる、共感してくれる、一緒にいてくれる、そんな音楽の魔法に浸ろうとした矢先…。

 

抽象的なミュージックとめて

音楽を止めてしまう。聞こえてくるのは街の雑音と、自分への悪口。どんなに魔法にすがろうとも、目の前の現実は変わっちゃくれない。

 

脱法ハーブ 握手会 風営法 放射能
ダサい ダンス ダウンロード
って言ったら負けのマジカルミュージック

もう一度、現実のテーマ。

 

ドキドキしたい ドキドキしたい
赤い実はじけたい はじけらんないよ
そこでどうですかマジカルミュージック
邦楽洋楽夢のよう
YO! YO!

海を真っ赤に塗るように、彼女からあふれる感情のイメージが「赤」なのかも。思うようにならない現実を振り払うかのように、またもマジカルミュージックへの逃避を図る。

んなわけあるわけねーだろ
音楽は魔法ではない

再び現実に引き戻される。

 

隣のババアは
暇で風呂ばっかはいってるから
浴槽で死んだ
私は歌をうたっている
どういうことかわかるだろ
ノスタルジーに中指たてて
ファンタジーをはじめただけさ
全力でやって5年かかったし
やっとはじまったとこなんだ

じゃあ家の中で人知れずぬくぬくとババアになって死んでいって良いのか。

 

音楽が残酷なのは百も承知。それでも自分は歌いたい。

 

過去の音楽に安心して浸るんじゃなく、現実から逃げるんじゃなく、自らが、自分の手で魔法を描いてみせる。感情を吐き出してみせる。

 

何度現実が襲いかかってこようと、「なかったことにされちゃう前に」魔法のような音楽がしたい。そんな思いを背負いながら、ミュージシャンとしてのスタートラインに立てた喜びと矜持。

(この箇所にはサブカルとか色物という「類型」として自分が語られることへの反発、というニュアンスも感じます)

 

音楽は魔法ではない
でも、音楽は

「否定と肯定・現実と魔法・客観と主観」の螺旋の中でどんどんエモくなっていく。この部分を聞くと私はいつも、喜怒哀楽のどれかなのかも分からないけれど、とにかく感情が揺さぶられる。そういう意味で「音楽って魔法だなー」と思います。

 

脱法ハーブ 握手会 風営法 放射能
ダサい ダンス ダウンロード
って言ったら負けのマジカルミュージック

そんなエモい魔法をまたも断ち切ってくる現実。

この部分の解釈は開けている気がしますが、螺旋を相対化するような前段の歌詞を踏まえると、「現実」すら魔法の中に取り込んでしまったような、そんな吹っ切れた力強さを感じます。

 

この曲は、自分に鞭打つような構成です。強烈な自己否定、自己嫌悪の中で、逃避に流れかける度に自らを現実に放り込み直し、苦い感情を味わいながらも前を向こうとする。

 

自分が自分でいるために、過去の生ぬるさを必死で振り払う。残酷な現実とひたすら向き合うことで自らを奮い立たせる。そんな強靱な精神が気付けば新たな音楽の魔法を生み、周囲を巻き込みながら勇気を与えていく。

 

表現者のスタンスとしてあまりに真っ当。素晴らしいです。

 

万が一、どの辺がロッキーなのか分からなかった場合は荻先生の名解説をどうぞ。

 

17年9月12日追記:ヨギー氏との揉め事、事例自体の是非は別にしても、この曲の解釈の関連で「簡単に音楽は魔法っていうクソミュージシャンが永遠に嫌い」「音楽そのものは魔法じゃない、音楽が魔法的な可能性を秘めているだけ。あとは自分とそこにいる人次第」というツイートはその通りだと思います。