Revueの日記

Revueの日記

歌詞の解釈やライブレビューなど、好きな音楽の話を主に書いていきます。Mr.Childrenが中心になると思います。

【John Mayer】 6thアルバム Paradise Valleyレビュー(上)

 

「夏の終わりに季節感がぴったり」ということで、John Mayerの6枚目のアルバム「Paradise Valley」を2回に分けて紹介します。

 

【以下、私的な簡単なジョンメイヤー紹介】

1977年生まれの39歳。アメリカのコネチカット生まれ、コネチカット育ち。

ブルース、フォーク、ソウルやカントリーなどなどアメリカ土着の音楽をきちんと受け継いだ上で、そうした文脈を今っぽく、東海岸な香りを漂わせたアーバンなギターで表現できる人。スモーキーな歌声でルックスも良くて、ギターの腕前はクラプトンも認めるほどで、普通にポップな売れ線曲もかけてしまう。当然モテる。

 

超ざっくり作品遍歴紹介。

01年、1stアルバム「Room For Squares」
03年、2nd「Heavier Things」
06年、3rd「Continuum」

ごりごりのブルースやギターポップを頑張る時代。

09年、4th「Battle Studies」

過渡期。ブルース色が一気に後退してちょっぴりフォーキーな香り。ギターあんまり弾かなくなってくる。

12年、5th「Born and Raised」

突然カントリーに。リリース前に喉の肉芽腫で手術、パラダイスバレーでの静養へ。

13年、6th「Paradise Valley」

17年、7th「The Search for Everything」

 

【Paradise Valley】

カントリーへの耽溺と喪失感から抜け出し、夏の魔法が解けた世界を踏みしめる

                                 f:id:olsen-revue:20170912112239j:plain

全体のトーンとしては前作「Born and Raised」のカントリー色を残しつつも、ソウルとかゴスペルとか黒人音楽っぽさもあり。前作よりちょっとおとなしめ。

前作の「そんな無理して突き抜けんでも」感からすると、もともとのジョンメイヤーの湿っぽさも加わって、より彼らしいバランスの音になってきたのかなと。相変わらずエレキギターはあんまり弾いていないですし、やっぱり初期作から比べて「地味」とか「つまらん」という評価もよく耳にしますが、少し脱力できている感じが個人的には好きな作品です。

  

2010年のプレイボーイ紙での差別的な発言やら、テイラースウィフトとのゴタゴタやら、ゴシップスター的な側面が取りざたされて、加えてアーティスト生命に関わるほどの声の不調。10~13年が彼にとってかなり辛い時期だったのは容易に想像できます(Born and Raisedのメロディは狭くなった音域に曲を合わせざるを得なかった結果だ、との説もあるそう)。

 

パラダイスバレーは、喉の手術でBorn and Raisedのツアーを全部キャンセルした後、静養のため滞在していたモンタナ州の田舎町の名称です。

 

歌詞には、過去のくたびれ感から一歩踏み出して歩き始めよう、といった文言が並んでいます。パラダイスバレーの大自然に囲まれて、前作以上に地に足付けてフォークやカントリーに向き合えたのかなあ、と思います。

 

全曲レビューはしんどいので、かいつまんで紹介します。

 

 

アルバム1曲目 【Wildfire】

跳ねるようなビート感に手拍子に、そこはかとなくゴスペルの空気が漂うアルバムのリード曲。祭りの始まりだ、って感じでしょうか。

陽気で楽しげな夏の夜にも見えますが、近くを流れる川は増水中でそこには近寄らないし、踊り(人生)には死神がつきまとう。負の感情が視界の端々にあるけれど、とりあえず今はこの自然に揺られよう、この一瞬一瞬が人生なんだから、と歌ってます。

  www.youtube.com

以下、歌詞の一部抜粋です(訳は日本版のアルバムに付いていたもの)

River's strong, you can't swim inside it

We could string some lights up the hill beside it
Tonight the moon's so bright
You could drive with your headlights out
'Cause a little bit of summer's what the whole year's all about
川の流れが激しいから 泳ぐことはできないよ
ライトをいくつか すぐそばの丘の上に吊り下げよう
今夜の月はすごく明るい ヘッドライトを消して運転できるくらいだ
ささやかな夏の日が その1年間の全て
You look fine, fine, fine
Put your feet up next to mine
We can watch that water line get higher and higher
Say, say, say ain't it been some kind of day
You and me been catching on like a wildfire
君は 素敵だ 素敵だ 素敵だ
くつろいだらいい 僕の隣で
二人一緒に見えるよ 水位がどんどん高くなっていくのが
ねえ ねえ ほら なんだか今日は
僕と君は野火のように燃え上がってる 
Don't get up just to get another
You can drink from mine
We can't leave each other
We can dance with the dead
You can rest your head on my shoulder if you
Want to get older with me
'Cause a little bit of summer makes a lot of history
立ち上がらないで もう一杯欲しいなら
僕の飲み物を飲んでいいから
お互い 相手を独りにすることなんてできない
僕らは死神と踊ることだってできる
僕の肩に頭をもたせかけていいよ
一緒に年を取りたいと思えるなら
ささやかな夏の日が 数多の歴史を作り上げるのだから

I got a rock from the river in my medicine bag

(Magpie feather in his medicine bag)
このメディスンバッグの中には川で拾った石が入ってる
(彼のメディスンバッグにはカササギの羽) 

一番謎なのがこの2行。石と羽についてはいったん保留します。

 

2~4曲目は虚構性の高いラブソングが並びます。

 

2曲目【Dear Marie】

過去の恋愛を歌う。

Dear Marie

Tell me what it was I used to be 

とか

Yeah I got that dream, but you got yourself a family
Yeah I got that dream, but I guess it got away from me

に現在の喪失感がにじんでいます。君が得たのが「君のための家族」なのに対して、自分が手にしたのが自分の、じゃなくてthat dreamなのが虚無感だなあと思う。

 

3曲目【Waitin' on the day】

未来への期待を歌う。後半には

Waitin' on the day

When these words are in stone

と石が出てきます。「these words」とは前の歌詞に出てくる「君がぼくのそばにいてくれて 愛してくれて…」というサビの部分。

君の僕への愛情が石に刻まれるのを期待してるよ、という意味です。こんな風に何かが永遠に続くことを望む気持ちの象徴が石、ということでしょう。

 

4曲目【Paper Doll】

元カノのテイラースウィフトの「Dear John」に対するアンサーとされるシングル曲。明るめの皮肉に満ちたカントリーポップ。

 

この3曲で恋愛については言いたいことを言い切ったのか、次曲からは自身に関する内省的な歌のゾーンに入っていきます。

 

 5曲目【Call me the breeze】

そよ風である自分がどこに行くべきか迷っている歌。クラプトンにも影響を与えた(らしい)J・Jケイルというミュージシャンのカバー。スワンプロック、ブルース感。レイナードスキナードもカバーしてるそう。

なんでこれをカバーしたのか。これは完全に推論ですが、故郷から遠く離れて、スターとしてゴシップに苦しんで、そんな心境が素直に歌詞になってるからなんじゃないのかなあ、と思ってます。

Ain’t no change in the weather ain’t no changes in me
I'm not hiding from nobody
Nobody’s hiding from me
Oh, that’s the way it’s supposed to be

天気が変わらないから 僕も変わらない

僕は誰からも隠れていないし

誰も僕から隠れてなどいない

I got that green light, baby I got to keep moving on
I might go to California

I might go down to Georgia

I don't know

青信号になったよこのまま進んでいかなきゃ

カリフォルニアへ行くかもしれない

ジョージアへ行くかもしれない

さあどうするか

モンタナから見るとカリフォルニアは西、ジョージアは東。俺はアメリカのどこに行けばいいのかなあ、というイメージでしょう。 

 

6曲目【Who you love】

テイラースウィフトに喧嘩を売るかのようなケイティペリーとのストレートなラブソング。恋愛に対する現在の心境、でしょうか。サウンド的にはここまでの泥臭さが減退して、現代的なR&Bアレンジになっています。

You love who you love who you love
My girl she ain't the one that I saw coming
And sometimes I don't know which way to go
And I've tried to run before but I'm not running anymore
'Cause I fought against it hard enough to know

愛する人を真摯に愛してる 愛する人

僕の彼女は予想もしなかった相手だし

たまにどっちの方向へ進んだらいいのか分からなくなる

考える前に駆け出してみたりもした でももう走るのはやめたよ

懸命にたたかって 十分思い知ったから

何か疲れてるなあジョン。少しは落ち着け、とCall me the breezeの自分に言い聞かせているようです。

 

7曲目【I will be found(lost at sea)】

このアルバムの肝だと思っています。

淡々としたピアノに乗せたボーカルは暗い海で一人佇んでいるようです。そこに絡んでいくギターと優しいドラムが主人公の心を少しずつ動かし、最後に希望が垣間見えて終わるという構成。

It doesn't matter where you roam
When no one's left to call you home
I might have strayed a bit too far
I'm counting all the moonlit stars

どこをさまよい歩こうと関係ない

呼び戻してくれる人はもういないから

少し遠くまで来すぎてしまったようだ

月に照らされた星を残さず数えている

帰る場所がなくなってしまった迷子状態。Wildfireの舞台、月明かりの夜に歌の場面が戻ってきました。

I'm a little lost at sea

I'm a little birdie in a big ol' tree
Ain't nobody looking for me here out on the highway
But I will be found I will be found
When my time comes down
I will be found

ぼくは海の漂流者

古い大木に止まった小鳥

ぼくを探す人は誰もいない このハイウェイでは

でもきっと見つけてもらえる

いつかその時が来たら

きっと見つけてもらえる

海のないモンタナを舞台に、わざわざアルバムのど頭も「River's strong」で始めたのに何で海なんだろうという疑問はありますが、とにかく川よりも広い空間で、車に乗った状態で孤独にさまよっている。古い大木=パラダイスバレー。どうせ今は誰も自分のことなんか探しちゃいないけど、いつか見つけてもらえるはず。 

Maybe I'm a runaway train
Maybe I'm a feather in a hurricane
Maybe it's a long play game
But maybe that's a good thing

きっと僕は暴走した列車

竜巻に飲まれた一枚の羽根

きっとこれは果てしなく続くゲーム それも悪くないかもしれない

ここで羽が出てきます。これも迷子の象徴だったようです。孤独の中で、自分を取り巻く混乱を受け入れている様子。

So I keep running 'til my run is gone
Keep on riding 'til I see that dawn
And I will be found I will be found

だから力尽きるまで走り続ける

あの夜明けを見るまで進み続ける

そしてきっと見つけてもらえる きっと見つけてもらえる

夜明けを目指して走り続ける。お祭りのようだったWildfireから、次のステップへの決意が静かに語られます。

 

最後にもう一度イントロを繰り返しますが、この時はピアノのメロディにアコギとエレキが寄り添ってくれています。

 

個人的な話ですが、当時自分がやっていた仕事のゴールが見えず、こんなんやっててどんな意味があるのかな、と少しブルーになっていたときに、車で流れていたこの曲が急に耳に飛び込んできて「I will be found」という歌詞に救われた気持ちになりました。そんなわけで、しんどいときによく聞く曲です。

 

www.youtube.com

 

後半に続きます。