レミオロメンは、特に「朝顔」~「HORIZON」辺りが私が音楽を聞くようになった時期と被っており、大変思い入れの深いバンドです。
当時はアジカン、バンプ、ACIDMANと並んで新時代の邦ロックの幕開けだ!と期待されていましたね。
そんなレミオロメンから、不遇の扱いを受けてしまった名曲「パラダイム」を紹介します。
【パラダイム】
レミオロメンは初期は良かった、でも小林武史氏のオーバープロデュースによって「壊されたんだ」、という言説がよく見られます。
実際の所、当時のインタビューを読む限りは、「メンバー3人の意見の相違」とか「何かと発言がふらふらしがちなボーカル藤巻亮太」とか、メンバー側に「セールスを保ちながら自己表現を続けていくだけのタフさ」が不足していたことが、機能不全に陥った最大の原因なんだろうなと私は思っています。武史は悪くない!と。
耳に残るポップさとバンドサウンドが不思議と両立してしまうのがレミオロメン最大の魅力です。小林氏がその「ポップ性」をうまく抜き出し、アレンジで磨きを掛けた粉雪は、超一級のヒットソングになりました。ここまでは良かった。
ところが、粉雪以降どこに進みたいのか、どんな音をどんな人に鳴らしたいのか。突然試聴層が広がった影響からか、3人の思いがはっきり見えないままの状態が続きます。
「多くの人に届く歌」という命題と3人の音だけで作り込んできたという元々のバンドの性質が見事に喧嘩して、何を歌えばいいのか分からなくなる。
小林氏もどうしたもんかと頭を悩ませていたんじゃないかなと想像します。
小林氏と時に戦い、時に救われてきた桜井さんや、「一緒にいると危ない」とバンドから切り離した桑田佳祐氏とは違い、小林氏とレミオロメンの距離感は何ともルーズなものになってしまっていた印象があります。*1
粉雪や太陽の下などヒット曲を詰め込んだ2006年のアルバム「HORIZON」で、レミオロメンは小林氏とがっちりタッグを組んで行けるところまで突っ走りました。
同年11月発売のライブ盤「Flash and Gleam」には、新曲「アイランド」を収録。「HORIZON」の裏返しとして、売れて音楽性が変わったことで離れていったファンへの思いや、確実に変わっていってしまう自分への絶望、それでも消えない音楽への情熱を、過剰なストリングスアレンジで描きました。
アイランドについてはこちらもご参照下さい。
「Flash and Gleam」から文字通り一冬の潜伏を経て3月に発表された再出発の楽曲。大変重要なタイミングで世に出たのがこのパラダイムなのです。
ただ、キットカットのおまけという特殊な売り方+限定50万枚+ベスト盤に入らず、その後も音源化されなかったという条件ゆえ、シングル扱いながら非常に知名度の低い作品です。
イントロから掻き鳴らされるギター。よう分からんドラム。そこで動くんかというベース。明らかに合っていない不自然なピコピコ音。
Aメロの全く予想の付かないメロディ展開からBメロで一息ついて、サビで爆発…しきらないもどかしさ。
初期らしい素朴な音と、小林氏によるやや強引な「シングルっぽい」アレンジ。このアンバランスな抜けの良さが「新たな季節の訪れへの期待」という歌詞のテーマともマッチしていて、この頃のレミオロメンの過渡期っぷりが良い意味で凝縮された名曲だと思います。
冬の中で落としてしまった 心の鍵
やっと見つけたら 鍵穴の方が 変わっていたのさ
何を見ている? ふるいパラダイム
冬の中=粉雪のヒット、アイランドの孤独。そこから抜け出す鍵を探していたけれど、自分自身がその環境に合わせて変化していた。
無常 コートも過去の哲学のよう
体に馴染んだ頃には 一つ季節が終わる
冬の厳しさから身を守るために殻に閉じこもった季節が終わろうとしている。
真っ白な雪が行き場を無くした
人の思い出のように 高く積もった
まるで綺麗な嘘みたいだから
そこに何があったか 忘れてしまった
粉雪が降りしきる、売れることで自分を取り巻く世界が変わっていく。その様子は嘘みたいで、自分自身が何者なのか見失ってしまった。
冬の中で話題に上った 暗いニュース
命の叫び 頭の向こうへ 抜けていったのさ
麻痺してれば そこはパラダイス
無情 デジタル化され 尚早いぞ
過激で刺激な方から どんどん召し上がれ
ここは小林氏と共にヒット街道を突っ走ったHORIZON期のことを指している…気がします。
主役が変わりドラマ続くのさ
エキストラにもなれない かもしれないけど
自分が主役で居続けることはできないかもしれない。
信じることで生きていけるから
疑うことでそれを 証明するのさ
それでも信じることで生きていける。基本ずっと外界の変化に対して受け身だった歌詞が、ここに来てストレートに前向きな思いに。ここがこの曲の根幹なんでしょう。
ただ、その大事なメッセージも「反芻することで証明するよ」という捻くれが藤巻流だなと思います。
ねえ 不平等に時は流れるよ
春を待つ時も 冬が来る時も
だけどドア叩く音を聞いていて
アイランドで歌っていた時の流れへの絶望。でも、どんなに絶望したって外界から自分に対するのアプローチは社会に生きる以上は止まらないし、自分の変化は続くもんなんだ、と心境が一歩進む。
真っ白な雪が そこから吹き込んで
人の心の中へ高く積もった
心のドアを開け放ち、1番で拒絶していた雪を受け入れる。結局、鍵の有無はどうでも良くて、雪をどう受容するかは自分の気の持ちよう次第なんだ、とも取れる。
信じることで生きていけるから
疑うことでそれを 証明するのさ
そこに何があったか 忘れはしないよ
残っているから
粉雪のヒットで消えてしまうと思い込んでいた自分らしさは消えることはない、と結論づける。
このパラダイムの直後に10thシングル「茜空」を発表。バンドっぽさはもう良いのかな、完全に吹っ切れたのかなと思ったら11th「蛍/RUN」を出したり、全くアルバム製作が進まなくなったりと、迷走期へとレミオロメンは入っていきます。*2