Revueの日記

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歌詞の解釈やライブレビューなど、好きな音楽の話を主に書いていきます。Mr.Childrenが中心になると思います。

【Mr.Children】新曲「here comes my love」感想

 

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Mr.Childrenの新曲「here comes my love」が1月20日より配信開始。

 

前回投稿からだいぶ間が開いてしまいました。

公式の歌詞も無い状態ですが、思ったことを書いていきます。

 

①音:新たな定番サウンドの確立

ざっくり言って、ノブナガ→Be Strong→足音→Starting Overの系譜にあると思いました。乾いたバンドサウンドと軽やかなストリングス。JENの良い仕事が続いています。

 

「himawari」はラウド寄りに振れた特殊な試みでしたが、この曲で持ってセルフプロデュース化以降のMr.Childrenが目指す音の方向性がだいぶ見えてきた感じがします。

 

ロックバラードというジャンルで言えば、「Everything(It's you)」、あるいは音的には「Starting Over」に近いですが、Bメロでスッと抜いてきたり、イントロのピアノ、熱いギターソロと、一曲の中で色んな表情を見せてくれるのが今作の特徴でしょう。

 

Everything(It's you)では、制作時に最後のサビを転調させるか迷った上で、あえて転調を避け、演奏の力強さで聞かせる道を取りました。ギターソロで感情を溜めて、最後のサビで爆発させる。今作もパターンとしては近いですが、最後のサビに至るまでの諸々の小技や演奏の押し引きの妙が、この間のバンドとしての成長と言えるでしょう。音を足すだけではない感情の揺さぶり方というか。

 

例えばサビに関して。AメロBメロのゆったりとした譜割りからすると、一気に言葉を詰め込んでたたみかかけてきます。静かなストリングスとギターが曲を盛り上げる一方で、Bメロまでかっこよく聞かせてきたJENがスッと下がる。全体として過剰ならないバランス。

2番以降フルートやホーンを脇に混ぜ込み、来るべき希望を予感させていきます。この辺はヒカリノアトリエの良い影響を感じさせます。

希望を胸に吸い込んだら 

2番サビでhere comes my loveの代わりに韻を踏みつつ歌う「希望を」「吸い込んだら」。ファルセットの開放感と歌詞がリンクしており、非常に感動的です。

 

もの悲しく始まりながら、階段を一段一段上るように次第に希望の光をつかみ取っていく。セルフプロデュースでもここまでドラマチックに、ダイナミックにアレンジできるのか、と嬉しくなりました。

また、「himawari」にカップリングで収録した「終わりなき旅」の音作りも、今作に繋がってるなと。正直、あの演奏聞いた時はなぜこれをわざわざ…という感じでしたが、遡って納得感が出てきたなと思いました。

音源ではギターソロを弾いてるのは桜井さんでしょうか。ライブでどうなるんでしょう。

 

やはりこの曲を連想。

 

 ②歌詞:終助詞の「な」と「ね」

いつかたどり着けるよね

この最後の一言にドキッとさせられた人も多いはず。この部分のテクニックを紐解いてみます。

 

innocent worldは「会えるといい」ではなく「会えるといい」だから感動的なのだ、という考察が昔からあります*1

「な」という終助詞は、問いかけの言葉でありながら自己完結的なニュアンスがあり、相手に同意を求める「ね」とは異なります。

innocent worldは(自分の)胸に流れているメロディー(純粋性)に対する郷愁と陶酔を叫びに変えた作品であり、本来他者に対して閉じた悩みを主題にしています。だから、「いいな」で終わる。

そして、この曲が面白いのは、こうした性質にも関わらず、メロディのポップさで押し切って「閉じた感覚をみんなで共有できてしまう」点。本来内的なはずの「いいなぁ」という呟きを、デカイ声で叫ぶ気持ちの良い違和感。この捻れた感覚こそが、innocent world最大の魅力と言えます(めっちゃ私見です)。

here comes my loveに戻りまして、

やぶり捨てようか
いや 初めからなかったものって思おうかな 

今も僕は君を正しく導いてるか

1番の頭と2番の頭に出てくる「君」に対する問いかけです。「な」です。自己完結であり、自身が勝手に言ってるだけの決意表明です。

他の箇所で「君」に関わる部分を抜き出してみると、

この海原を僕は泳いでいこう 

その海原を誰もが泳いでいるよ

また愛する人の待つ場所へ

数え切れない偶然が重なって 今の君と僕がいる

君のそばにいるよ

また君と泳いでいこう

と次第に自己言及的な、「な」な姿勢から「君」と向き合う方向へ近づいていきます。それでも、「君」に直接問いかける言い方を巧妙に避けています。最後のサビで「君と泳いでいこう」となり、ようやくここまで来たかと。

そして、最後に(恐らく桜井さんは自信たっぷりに)「たどり着けるよ」と持ってくる。遂に「僕」が「君」と向き合う。一方通行で閉じていたストーリーが外に開けるとともに、「僕」の目線が安全圏にいたはずの聞き手へと突然向けられる。だから印象的に響く。

主題歌となったドラマは、妊活に悩む妻とあまり理解のない夫の話のようです。夫が不妊を自分の問題として捉え、2人で向き合うようになるストーリー(だとすると)、この歌詞構成がドラマの展開を補完しているのかもしれないと思います。

 

足音の続き

ドラマのテーマ的に精子卵子を意識させているのは当然として、桜井さんがその舞台に選んだのは「海原」。壮大な曲調のサビに持ってきて、「鯨」や「ピノキオ」「灯台」に絡めている。

「かつて見た夢の地図を破る。それでも進もうとする」と言われると、BUMP OF CHICKENの「ロストマン」も思い出します。自分では歌わないと公言しながら、去年のap bank fesでついにカバーしたこととも、アイデアとしてはどこかで繋がっているのかもしれません。

REFLECTION後の最初のシングルとなった「ヒカリノアトリエ」は人生の行進曲でした。雨が降っても、歩き続ければ虹は見えるかも知れない。だから、歩みを止めない。

輝く光じゃなくても

消えることのない心の明かりはいつも

君を照らしている

ヒカリノアトリエ同様に、今回の歌詞からもまた、枯れていくかもしれない自分の才能を見つめつつ、情熱を失いたくないという桜井さんの思いが感じられます。

足音、REFLECTIONで新しい靴を手にしたMr.Children。次のアルバムは、「その歩みを止めない」との決意に溢れた作品になりそうだと感じました。

*1:詳しくは別冊宝島の「音楽誌が書かないJポップ批評17 “イノセントワールド大全”」に記載があります。