【Mr.Children】ヒカリノアトリエで虹の絵を描く
エレカシライブもThanksgiving25の発売も迫りつつある中、ようやく数周した雑記的な感想です。
【総評】
いかに4人がコンセプチュアルなツアーを築いていったか、特に田原さんの活躍は見えました。ヒカリノアトリエの「苦難を乗り越えていく人生観」は、確実にかつてのような声が出なくなっている桜井さんの苦しさや、可能な限り音楽を続けたいという思い、それを支えるメンバーの姿勢が曲になったものだと思いますし、歌えずに苦しむ桜井さんの姿をあえて収録したり、古い楽曲に対して声の変化がプラスに作用する瞬間があったりと、Mr.Chidlrenのボーカル・桜井和寿のドキュメントしては面白いと思いました。
とはいえ、バンドの映像作品としては、メンバーそれぞれの活躍や、ブラスを交えた大人数のバンドとして仕上がっていく様を描き切れているとは思えず、物足りなさは残ります。選曲に関しては、もともとミスチルはレア曲をなかなか映像化しないアーティストではあるけれども、メッセージ的にもせめて「通り雨」は欲しかったなあ…。
Mr.Children「Mr.Children、ヒカリノアトリエで虹の絵を描く」Live&Documentary DVD / Blu-ray Trailer
【各曲ざっくり感想】
1. ヒカリノアトリエ(インスト版)
歌が無い分、メロディラインの美しさが際立っていて、いきなり泣けてくる。忙しい僕らでも感じましたが、ミスチルに眠っていた生々しい演奏感やメロディの魅力をダイナミックに引き出す世武裕子さんの手腕。見事です。
2. お伽話
ちゃんと言葉を伝えたい、という演出が嵌っていました。私も当時会場で、何が始まったんだろうと不思議な気持ちになったのを思い出しました。
逃げても逃げても
どこまでも追いかけてくるんだろう
自分自身っていう亡霊
清らかでいようなんて今さら思ってない
だけど そうあれたらなってどこかで願ってる
お伽話に出てくるような
間抜けな奴はどっかにいないかな
虚飾に満ちた自分を卑下しながらも、音楽が描ける「希望」に思いを寄せてみたり。「覚醒剤」「札束」など、最近にしては珍しく強い単語を並べていますが、テーマ的にはinnocent worldの頃から変わらない、正直ミスチルにとってはお馴染みの内容だと思います。
映像で見ると、当初のセトリには「友達のままで」が入っていたのが映り込んでいます。お伽話のポジションには「血の管」。とにかくホールの1曲目では客のテンションを下げたかった、という桜井さんの狙いは当初から一貫していた様です。
3. You make me happy
小春が合流し、音の幅や色味が付いてきたバンド感を感じさせる選曲。力の抜けた大人な余裕や自信を感じます。枯れた桜井さんの声が魅力的。CD音源より伸びやかで良い感じです。50歳を過ぎた彼らだからこそ鳴らせる新しいMr.Childrenだと思います。
デジタルとアナログ その狭間の時代に
響き渡った青春のサウンド
君といるこの時間が好き
君のいるこの街が好き
久々のホールツアー感。
4. PIANO MAN
多彩な音に包まれる4人。音のバランスが良いですが、ある意味小林武史オンステージに振り切れてたホームアリーナ版も嫌いじゃなく、甲乙付けがたい。無限大にあーる!のシャウトがないのはちょっと物足りなく感じてしまいました。
ポテンシャルならまだ十分に発揮していない
無限大にある きっと可能性は果てしない
立ちすくんでいようが 歩いていようが時計の針は進むぞ
5. クラスメイト
個人的には、この曲を収録してくれただけで数千円の価値があります。生々しいアコーディオンが素晴らしい。
往年の艶っぽさはないけれど、今の桜井さんの歌う、こういうクラスメイトもありだと思います。ボーカリストとしての当事者性やリアリティというより、乾いた温かみのある虚構感。人によってはQツアーに比べて軽く聞こえるのかもしれないけれど、私はこれはこれで素敵だと感じました。
山梨公演でのくるみ。かなり苦しそうで、声が出ていません。ここをわざわざ残すのはミスチルの作品としては珍しく、「おや?」という感じ。
6. 妄想満月
クラスメイトと同じく、ボーカルの軽さと虚構性がいい方向に作用しています。
JENは鳴き声はリアル。
7. 虹の彼方へ
老いを受け入れながら挑戦していく。今の桜井さんがこの曲を歌っているってだけで、on dec 的に無条件で泣けてしまう。走馬灯的な、明るい切なさが滲む名演だと思います。
Walkin' on the rainbow
雨上がりの路上に輝く
飛び出した My dream
8. しるし
映像ではラストサビだけ。湿っぽすぎない。ライブ音源に関しては、STD版が良すぎたというのが私見です。
9. こころ
配信した上で、何かのドラマ主題歌にして欲しかったなあと。挑戦的なシングルも良いですが、こういう温かい歌をもっと世間に投げ込んでいけばいいのにとつくづく思います。
曲調的に、音源化時はこれも世武さんアレンジになるのではないでしょうか。豪勢ではないのに、ずっしりとした力強さが伝わってくるバランスの演奏でした。最後の転調ありきのキー設定な感じがします。
心についての説明のMCもとても良かったです。
ちょっと折れてる…泣
数えきれないほど踏みつけてきた 人の心
何年もたった今 その場面を思い返し
恥ずかしくて消えたくなる
時流に乗り走った自分を許せたのも
それ以上に大きな
出会いが確かに僕を変えてきたから
胸が痛むのは
あなたが
心を僕に教えてくれたから
たかが静かな気持ちで
嬉しくなるのは あなたが
幸せに触れるヒントをくれてるから
取るに足らぬ出来事で
嬉しくなれるのはあなたが
心を僕に与えてくれてるから
1番、2番、ラストのサビ。「あなたが」の配置に掛ける小技。わざわざライブ会場でこの曲の歌詞カードを配るだけのことはあります。
嬉しくなる=あなたがいることを条件に、その時は嬉しくなる
嬉しくなれる=あなたがいるだけで、自分は嬉しい気持ちになれる
と「あなた」への感情が進んでいるように取れます。
10. ヒカリノアトリエ
キー下げ。小春のコーラスが良い。照明演出、暗闇の中のキラキラが歌詞のメッセージとばっちり合っていて、さすがにミスチル側の気合いを感じさせます。
過去は消えず 未来は読めず 不安はつきまとう
だけど明日を変えていくんなら今 今だけがここにある
使い古しの嘘さえ許せたなら 虹はもうそこにある
旧歌詞での弾き語りも収録。偽物と知りながらも希望にすがる前向きな姿勢。
「桜井が歌えなくなってしまったらMr.Childrenは終わり」。
11. メインストリートに行こう
収録は後半のみ。短く切った歌唱や、ステージ上がる直前の表情から不安や緊張感も伝わってきましたが、しっかりと歌い切って最後にはJENの笑顔。公演中止シーンの後だけにグッと来ます。
12. 跳べ
声の不調、前曲の「完璧じゃなくても完璧以上を目指す」というMCの流れでこの曲は熱い。ヒカリノアトリエというバンドが出せるフルパワー。
とはいえ作品的な盛り上がりのピークにこの曲とは、やっぱりファン向けのドキュメンタリーなんだと感じます。
そうだここが出発点 そうだここが滑走路
目指すべき場所はなくとも
13. 終わりなき旅
4人のエネルギーを出し切る曲。ロックバンドミスチルを全面に、スカッとさせてくれます。ヒカリノアトリエの骨格にあったミスチルらしさを剥き出しに示しつつ、Thanksgivingへの引きを作って終了。ラストのサビの歌い回しのアレンジはあんまり好きじゃないです。
Live & Documentary 「Mr.Children、ヒカリノアトリエで虹の絵を描く」digest
【ヒカリノアトリエMV】
個人的にミスチルのMVは、エソラを最後に心引かれる作品があまりなかったのですが、今作は泣けました。最後まで見てこそ良さが伝わるのに、フルバージョンをYouTubeに上げない公式…。ThanksgivingのPV集に収録が決まって少し安心しました。