Revueの日記

Revueの日記

歌詞の解釈やライブレビューなど、好きな音楽の話を主に書いていきます。Mr.Childrenが中心になると思います。

【Mr.Children】himawariと君がいた夏

 

1発目のエントリーはMr.Childrenの新曲「himawari」のレビューです。

 

元々ミスチルは大ファンなのですが、この曲には色んな意味で心を掴まれました。この気持ちを文字に残しておきたいと思ったこと、これが当ブログを始めた最大のきっかけです。

 

さっそく、つれづれ書いていきます。

 

twitter.com

 

Base Ball Bear小出祐介さんのツイッターでのhimawari評の一部です。

 

この解釈方法に完全に乗っからせて頂いて、最新シングル「himawari」と1stシングル「君がいた夏」の歌詞を比べてみるとなかなか面白いなーと。

 

結論から言うと、himawariは別れの絶望という心情を当事者自らが叫ぶロック的なアプローチを取っているのに対し、君がいた夏は別れを俯瞰し、文字通りポップ化している。2曲はひまわりという共通項も含め、似たモチーフでありながら対極にあると思う、という話です。

 

 

【概論的な話】

そもそもMr.Childrenは、(散々インタビューなどで語られてきたことですが)バンド名が示す通り、ロック的な物とポップス的な物という二律背反な表現を続けてきたバンドです。どちらかのサイドに振り切れている楽曲もあれば、「絶望を知りながらあえて希望を歌う」ような真ん中を狙ってくる曲もあります。アルバムごとにどのサイドに振れていくか、傾向や比率も変わってきます。戦略立ててマーケティング的にやっている部分と、メンバーの本能的に自然とそうなっている部分と、両方がある気がしますが。

 

とにかく、この絶望と希望、ロックとポップスの絶妙な使い分け、バランス感を保ちながら、セールス的にも第一線に立ち続けてきたのがミスチルなんだ、と言えます。この対比を前提に、それぞれの曲の歌詞を抜粋して見ていきます。

 

 【himawari】

himawariの主人公は1番のサビではっきり明示される通り、「君」自身が放っていた「眩しさ」に心を捕らわれています。  

いつも

透き通るほど真っ直ぐに

明日へ漕ぎだす君がいる

眩しくって 綺麗で 苦しくなる 

1番の段階では、サビも含めて「純粋に死別を惜しむ」歌詞とも取れます。

ただし、サビ前の

「ありがとう」も「さよなら」も僕らにはもういらない

「全部嘘だよ」そう言って笑う君を

まだ期待してるから

は軽い感じで歌っているものの、「別れを頑なに受け入れない姿勢」を示唆している、とも読めます。この曖昧な気持ち悪さが、じわじわと2番に広がっていきます。

 

2番Aメロ。

想い出の角砂糖を

涙が溶かしちゃわぬように

僕の命と共に尽きるように

ちょっとずつ舐めて生きるから

1番サビで一度爆発した感情は、間奏で唐突に打ち切られます。本当に1人になった、という孤独感の中で、主人公はふらふらと歩き始めます。ここに来て、「舐める」「命と共に尽きる」という強い言葉を用い、主人公の「執着」にも近いネガティブな感情をより漂わせてきます。ここの比喩表現すごく好きです。

  

2番サビは見たまんまの意味だと思います。次第に目線が「君」から自分の心へ移り、内省的な描写になってきます。

 

そして、この曲の肝と言える大サビ。 

諦めること

妥協すること

誰かにあわせて生きること

考えてる風でいて

実はそんなに深く考えていやしないこと

思いを飲み込む美学と

自分を言いくるめて

実際は面倒臭いことから逃げるようにして

邪にただ生きてる

1~2番では押さえつけてきた主人公の心情が明かされます。「君」との別れについて、実際は何も精算できないまま孤独に捕らわれているんだ、という告白です。ネタバラシと言ってもいいかもしれません。「邪」は仮タイトルにもなっていたそう。演奏も最大の盛り上がりを見せ、田原さんの歪んだギターが、「絶望」のモチーフとしてイントロ以来再び主人公のもとを訪れます。

ちなみに、抽象度の高い歌詞を1~2番で並べながら、急に大サビで長々と心情を吐露するという展開は「and I love you」っぽいなあ、と思います。

 

だから

透き通るほど真っ直ぐに

明日へ漕ぎだす君をみて

眩しくって 綺麗で 苦しくなる

暗がりで咲いているひまわり

嵐が去ったあとの陽だまり

そんな君に僕は恋してた

そんな君を僕はずっと

主人公の絶望が明かされた直後に繰り返されるこの歌詞は、「君の眩しさ」が消えず、2番サビのように他の恋に向かうこともできない、ひたすら苦しい心情を歌ったものに聞こえます。明日へ漕ぎだす「君がいる」という距離を取った1番の視点が、「君をみて」という主人公の主観へ切り替わっています。そんな恋愛もあったねと俯瞰するような、客観的な目線はありません。

 

この切り替えを可能にしているのが、激しい心情吐露の大サビと最後のサビを繫ぐ「だから」。この一言がすごく効いています。最後のサビが放つ思いはポジからネガへ、1番の時とは明確に意味が変わっています。

 

そして、 最後の「そんな君を僕はずっと」。桜井さんの叫びの中、もう一度田原さんのギターが響きます。結局、主人公は救われないまま。

 

タイトルをアルファベット表記することで、一般的な夏の花ではなく、抽象化したイメージを表現する。このhimawariの世界には「君と僕」以外の誰かの姿も、美しい夏の風景もありません。歌詞は全て「僕」の心象風景の描写に捧げられ、「君」を失った孤独がひたすらに通底しています。

 

ミスチルのシングルでここまで「絶望」に振り切れた曲は珍しい。「君の眩しさ」が無邪気に強調されるほど、裏にある「僕」の孤独とのコントラストが濃くなっていく。あえて綺麗目に入った上で突き落とすという構成は、聞き手に牙を向ける意図すら感じます。

 

君がいた夏

一方の君がいた夏

夏の終わりの恋愛模様を描いていますが、主人公の視点はどこか思い出を俯瞰しながら、懐かしんでいるような印象を与えます。その恋愛にどっぷりとつかり、感情が激しく揺さぶられている様子ではありません。

夕暮れの海 

自転車で駆け抜けた真夏の朝早く

ひまわりの坂道駆け降りてく君が振り向いたあの空の眩しさ

こうした客観的な情景描写を1番Aメロ、2番Aメロ、大サビという曲のポイントごとに織り込み、「君」の存在そのものではなく、「夏の景色」ごとを懐かしむ。美しいギターフレーズが眼前に広がる夏の風景を想起させます。「もうさよならだ」と、「I will miss you」と切なく歌いながらも、主人公の心に残っているのは「君」ではなく、君がいた「空の眩しさ」です。

 

(そもそもこの曲のイメージは桜井さんの地元・山形なので、ノスタルジックになるのは当然かもしれません。 タイトルの元ネタもザ・郷愁映画ですし。ちなみに、こっちの映画も恋人の死をきっかけに2人の思い出を振り返る話です。)

 

【まとめ】

himawariと君がいた夏、それぞれの持つ全く正反対な顔、そして25周年のシングルにhimawariを持ってくるバンドのスタンス自体が、ミスチルの25年間を集約している。冒頭の小出さんの「25年の希望と絶望のらせん階段」とは、このことを指しているのでしょう。

要するに、バンドのスタートと現在地が両極にあり、それぞれの佇まいがバンドの歴史を語っているって、すごくミスチルらしいし格好良いなあ、というのが一番書きたかったことです。

  

【今後の妄想】

自身のラジオでhimawariを初オンエアした際、鹿野淳氏は「DISCOVERYやQのようなフェーズ、桜井さんのプライベートも含めて世間の期待するミスチルの反対を進む時代が戻ってくるのかも」(細かな表現はおぼろげです…)と指摘していました。

 

あえてリスナーの期待を外していく。

POP SAURUS2001以降、ミスチルが選んでこなかった道です。

 

himawari、忙しい僕ら、そして未発表の「御伽話」や「こころ」。今の桜井さんはその瞬間の思いを素朴に、デフォルメせずに歌おうとしている感じがします。確かにこう並べてみると、ポップの再検証は終わったのかも、という気もします。

 

今後もhimawariの世界観を踏襲し、職人的表現に突っ走るのか。

あるいは従来通りポップスの枠組みの中で絶望を相対化していくのか。ミスチルのことだから、あっさりまた王道ポップに舵を切ってきそうな気もします。

 

いずれにせよ、ワンオクにも多分に影響されたであろうこの強烈な曲を聞いて、ヒカリノアトリエ的なミニマルな姿勢ばかりでなく、スタジアムで歌えるバンドとしてやっていく気持ちもまだまだ強いんだなと確信しました。

 

素朴なアコースティックアレンジで希望の「虹」を歌った25周年第1弾シングル「ヒカリノアトリエ」と、重々しいバンドサウンドで絶望の「ひまわり」を歌った第2弾シングル「himawari」。

 

希望、絶望と来て、次はどこへ向かうんでしょうね。

 

 

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余談ですが、音源初解禁となった映画「君の膵臓をたべたい」の予告編で流れるのは、1番Aメロ→1番サビ→最後のサビと繫いだ編集版で、「絶望」を示すギターはカットされています。最後のサビの最後のフレーズも切っています。Mr.Childrenによる主題歌「himawari」の音源解禁!『君の膵臓をたべたい』予告編 - YouTube

映画の予告編では「純粋な」ミスチルのイメージを発信しつつ、その後解禁したライブ音源(ファン向け)で絶望のパートを見せる。映画予告編と激しいライブ映像のギャップで意表を突いてくる、考えられた戦略だと感じます。Mr.Children「himawari (Live ver.)」 MUSIC VIDEO (Short ver.) - YouTube