Revueの日記

Revueの日記

歌詞の解釈やライブレビューなど、好きな音楽の話を主に書いていきます。Mr.Childrenが中心になると思います。

【John Mayer】 Paradise Valleyレビュー(下)


8~11曲目のアルバム後半戦は、7曲目「I will be found」で孤独の中に希望を見いだした彼の心境の変化がよりストレートに描かれます。

 

8曲目【Wildfire (feat. Frank Ocean)】

もう一回Wildfireの世界へ。曲のバックでは虫が鳴いていて屋外にいるよう。1分強と短い箸休め的な曲ですがParadise Valleyの中でも一番深い夜、という感じがします。

Only a nascent trying to harness huge fire
Out on the beach in the darkness starting bonfire
So gorgeous, a man might cry

巨大な火を操ろうとするのは愚かな者だけ

暗くなった浜辺でたき火が始まる

あまりに美しくて 大人も涙を流す

そもそもwildfireは山火事とか、自然発生的な大火のこと。そうした火ではなく、自ら付ける小さなたき火の美しさを歌っている。自然音が響き、ひたすら真っ暗な中で輝くたき火の美しさだけが正しい。

川岸じゃなくて浜辺なので、「I will be found」の孤独の海から上がってきた所なんでしょう。

Burning trees in the basement, start a cool fire
Feel my heartbeat racing, baby you're on fire
So gorgeous, a man might cry

地下室で木を燃やしきれいな火が上がる

ぼくの胸の高鳴りを聞いてみてほら君に火が移る

あまりに美しくて 大人も涙を流す

地下室は後述の「Badge and Gun」でも出てきます。そこでの使われ方から想像するに、他者を拒絶した心的空間の象徴なのかなあと思います。視覚的なイメージとしても、暗い地下室の火=胸の高鳴りは繋がっている気もします。閉ざされた中でも心の火の美しさを忘れてはいけないということでしょう。

treeって立ち木だから意外と広い空間なんだよなあ…という点は謎です。

「浜辺だろうと地下室だろうと、火の美しさは変わらない。本質を外さなければ、自分がいる場所は関係ないんだ」と捉えると、「on the way home」の歌詞に繋がっていきます。

Back in Paris you told me you were suicidal
It's not a vacation if I lose you to the Eiffel
You're gorgeous but you can't fly

パリで君はもう死にたいと言っていた

バカンスどころじゃない もし君をエッフェル塔で失ったら

君は美しいけど空を飛ぶことはできない

今度はパリ。パラダイスバレーとは対照的な街の象徴でしょうか。街での過去のつらい思いと、現在の開放感が対比されている。

A hidden admirer sent me roses white as fire
We took our handfuls it was war, flower fighter

密かに僕に熱を上げている人から 燃えるような白いバラが届いた

僕と君は一握りずつ花をちぎって戦争を始めた 花を持った戦士たち

ここが今アルバムで一番分かりづらい…。

白いバラで戦争というと、第2次大戦中のドイツの反戦運動があります。学生の反ナチ活動の象徴だったけれど、弾圧され、みんな処刑されてしまった。

とりあえず時制が過去なので「...it was war」までの描写は、当時のドイツ社会のように、他者の善意を踏みにじってしまった過去の自分の愚かさで良いかと。

 

で、最後の「flower fighter」が何を指しているのかが読めない。思いついた解釈3つ。

①和訳通りに読んで、愚かな「We」=花の戦士。過去の滑稽な自分への嘲り。原文は複数形じゃないので、個人的には疑問(概念的に捉えているから数えていない、とも考えられますが)。

②1行目のA hidden admirer=花の戦士。善意のファンに対し「ここ最近は気持ちを踏みにじってきてしまって申し訳ない」と呼び掛けている。

ベトナム反戦運動のフラワーチャイルド(銃ではなく花を)=花の戦士。彼ら、あるいは白いバラ運動の学生や、善意のファンのように無償の愛を与えられる存在になりたい。白いバラ運動とフラワーチャイルドは非暴力主義という点で一致している。この頃のジョンメイヤー、ピースマーク付けてたし。ただ、「Badge and Gun」で自分は銃を持って戦う運命だと歌っているので、そことの整合性が微妙か。 

 

個人的には②だといいなあ、なんて。

とにかく、他の曲とは歌詞の抽象度が段違いで、視点の置き方が全く異なる。だからこそ、この曲のボーカルを自分ではなくフランク・オーシャンに任せたのだと思います。

しかしまあ、フランク・オーシャン良い声してます。

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9曲目【You're no one 'till someone lets you down】

一転してカントリー調の曲に戻ります。この曲の「僕と君」については、自分の内面を歌っているように読めます。喪失を前向きに捉えようとする心境、季節の移り変わりと共に、僕と君の別れが近いことが暗示されています。歌詞の抜粋です。

No, I've not seen you this way before
Standin' a mess at my door

Well, it took you so long but you finally found
You're no one 'til someone lets you down

君がこんな風になるのは初めて見るよ

僕の前で惨めさに耐えている いつか分かる時が来るだろう

打ちのめされて 初めて何者かになれる

Yes, I've been told That some people grow old
Without losing a part of their soul
But if that is true I don't wish it on you
There's so much to adore in a heart that is blue

確かに聞いたことがある この世には年を取っても

魂を全く失わなくてすむ人がいること

本当だとしても君にはそうなってほしくない

傷ついた心の中には美しいものがたくさんあるから

There's a light in your eyes that is pure
That you won't give away anymore
But just think of the things We can talk about now
You're no one 'til someone lets you down

君の瞳の中に陰りのない光がある

その光を君はもう誰にも渡したくないと思っている

でも今話し合えることを考えてみて

打ちのめされて 初めて何者かになれる

つらい今だからこそ話せること、見えるものがあるだろう、と。

Yes, I have heard There are some who avoid
All the pain that will come with the fall
But if that's the case It would surely erase
All the joy that you feel When the hurt fades away

確かに聞いたことがある

この世の中には挫折に伴う痛みを避けている人がいること

だけどもしそんなことをしてしまったら

痛みが消えたときにやってくる喜びを味わうこともない

There's a heart ticket train on the way
Waitin' to take you away Will you please keep in mind
When it pulls into town You're no one 'til someone lets you down

全席指定の列車がやってくる 君を連れ去ろうとしている

街に行くときはどうか覚えていてほしい

打ちのめされて 初めて何者かになれる

  

10曲目【Badge and Gun】

保安官の象徴、保安官のような自由と自律を求める宣言。バッジを胸に、傷を癒してくれたパラダイスバレーから旅立っていきます。

Give me my badge and gun
Give me the road that I may run
Give me that peaceful wandering free I used to know

バッジと銃を取ってくれ

僕の進む道を阻まないでくれ

かつて僕のものだった静かで気兼ねない自由を返してくれ

わざわざ「私の」バッジと銃としているので、元々持っていたのに失ってしまったと分かる。

Give me the songs that I once sung
Give me those jet black, kick-back, lay-down nights alone
This house is safe and warm
But I was made to chase the storm
Taking the whole world on with big ol' empty arms

かつて僕が歌っていた歌を返してくれ

暗闇の中ゆったりとひとり休んでいた夜を返してくれ

この家は安全で暖かい

だけど 僕は嵐を追うために生まれた

自由なこの両腕で 世界をこの手に取ってやる

最後の「arms」は古びた武器=音楽にも掛かっている気がする。

The lock is on the cellar door
I can't remember what it's for
I ain't been down those stairs in oh so long
So so long

地下室のドアの錠を見て

それが何のためなのか思い出せない

もう長い間地下室には入っていない

さっきまでいたじゃねえかという気もしますが、「wildfireの真っ暗闇には長いこと入っていないし、今は先を見据えている」という意味でしょう。

The copy of your key
Is hanging where it used to be
Good as you've always been to me
The life I need to lead
Is somewhere out there calling over those hills

君からもらった合鍵はいつもの所に掛けておいた

君は僕に優しくてくれた

だけど 僕の歩むべき人生は

ここではないどこかで 丘の向こうから呼んでいる

君の優しさに甘えずに一歩を踏み出す。

 

11曲目【on the way home】

夏の終わり。パラダイスバレーから、もといた場所へ。戻る場所はない、と言っていたのに帰っていくという表現に決意を感じる。

ここまでの歌詞を散りばめた、アルバムを締めくくる総括的な曲です。「Born and Raised」から続くカントリー路線を抜け出す、という意味かもしれませんし、再び輝きを取り戻したいという思いの表れかもしれない。パラダイスバレーに引きこもった経験を前向きに捉え、気張らずに歌っている印象です。歌詞もすごくストレート。

The summer's over, this town is closing.
They're waving people out of the ocean.
We have the feeling like we were floating.
We never noticed where time was going.

夏が過ぎていく この町も静かになり

海の季節ももう終わろうとしている

ぼくたちはまるで海に浮かんでいるような気分だった

ぼくたちは知らなかった 時間がどこに行ってしまうかを

夏が終わり、孤独の海も終わり。

Do you remember when we first got here?
The days were longer; the nights were hot here.
Now, it's September; the engine's started.
You're empty-handed and heavy-hearted.

覚えているかい?ここに最初に来た日を

昼が今より長くて 夜は暑かったね

気付けばもう9月 エンジンはもう動き出した

何も抱えていないのに 心は重い君

体は軽く、心には手土産ができた。

But just remember on the way home 
That you were never meant to feel alone.
It takes a little while, but you'd be fine:
Another good time coming down the line.

ただ 帰り道に思い出して欲しい

きみはひとりぼっちじゃないことを

少し時間はかかるけれど きっと大丈夫

そのうち楽しいことがまたやってくる

You'll go back to love that's waiting.
I'll unpack in a rented room.
How's that life you swear you're hating?
Grass is greener: that makes two.

きみは きみを待つ人の元に戻り

僕はアパートで荷ほどきをする

うんざりだと言っていた生活はどう?

周りばかりよく見える それはぼくも同じ

 一時のバカンスを終え、元の生活へ。

Life ain't short, but it sure is small.
You get forever but nobody at all.

It don't come often, and it don't stay long.

人生は短くないけど ちっぽけなのは確か

永遠を手にしたところで 誰かをものにできない 

めったにやってこないし すぐにいなくなってしまう

時間の横軸だけで見ると長いけど、立体的に捉えると人生は短い。その中での諸行無常感。

「Waitin' on the day」の永遠を石に刻みたい、という心境への一つの答えだと思います。

Just stay on the run; get off the grid.
Hide yourself out like you know that I did,
And if you might find that your running is done,
A little bit of Heaven never hurt no one.

ただ流れに身を任せ好きなように生きてごらん
逃げたっていい 僕がそうしたように
気が済むまで そうしても
ささやかな幸せが誰かを傷付けることはないから
最後の1行の言ったった感が好きです。

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旅をしながらツアーを続け、ファンと触れ合う姿。各地でこの歌を歌う楽しげな様子はまさにささやかな幸せ。映像の〆が浜辺なのもパラダイスバレーの物語を踏まえている感があって良い感じです。

 
こうしてパラダイスバレーの自然とアルバム製作を通して心の傷を癒した彼は、最新作「The Search for Everything」で見事に「みんなが待ってたジョンメイヤー」として帰ってくるわけです。