【Matthew Sweet】パワーポップとGirlfriend
パワーポップというジャンルがあります。ものすごくキャッチーで、好きな人は好きだけど、近づかない人にはかすりもしない。でもそこそこ歴史があって、今も続いている。そんなちょっと変わった音楽の魅力を紹介できたらと思い、筆を執りました。
ジャンル分け自体が曖昧模糊としたものですが、ここでは一端「ビートルズから親しみやすいメロディとギターサウンドだけを抽出したような、ビートが跳ねてる感じでコーラスがよく入る、シンプルな歌もの」と定義しておきます。*1
70年代初めに既存のロックへの反発からパンクが生まれ、ニューウェイブへと進化していきますが、その流れに逆らう形で70年代後半に生まれたのがパワーポップです。*2
パンクが王道への裏返しだったのに対し、そのパンクをさらに裏返した結果、表になったような。今の感覚だとしっくりこないですが、コステロもパンクの亜流・ストレートなロックンロールという意味でパワーポップと呼ばれていたらしい。
そもそもがイギリス発の潮流であり、ニック・ロウとかXTCとかラズベリーズ辺りを元祖と呼べばいいんでしょう。
チープトリックもパワーポップの一員に数えられるそうです。ザ・ナック、フレイミン・グルーヴィーズ…70年代後半~80年代前半は、アメリカ発のパワーポップが輝いた時代でした。
残念ながらこれ以降、この種の音楽は「ダサい」扱いとなっていきます。確かに、一部のバンドに関しては、80年代の商業主義チックな雰囲気と60年代の悪い意味での古臭さが結びついて、何とも安いアイドル感が出ていたのは否めないとは思います。*3
ただ一方で、例えば80年代半ばからマシュー・スウィートやザ・ポウジーズが米国内のインディペンデントな領域で地道に活動を続け、R.E.Mのマイケル・スタイプとも交流していたといったエピソードを聞くと、冬の時代だった80年代パワーポップも、オルタナやグランジといった次の時代に向けた種を蒔いていた…というのは甘い評価でしょうか。
そして、マシュー・スウィートが91年に発表した3rdアルバム「Girlfriend」で、パワーポップは息を吹き返します。相次いでヴェルヴェットクラッシュや、ジェリーフィッシュ、Teenage Fanclubなどが登場。グランジと一定の距離を取りつつ、最後にはオルタナムーブメントに乗っかって、ウィーザーが大成功を収め、2000年代のFountains of Wayne辺りに繋がっていきます。
↑有名ですが、この界隈で一番好きな曲です。疾走感が素晴らしすぎる。
キャッチーではあるものの、世間的に大ヒットを飛ばすでもなく。かつ「分かりやすい」のでコアな音楽ファンから下に見られがち。悪く言えばどこまで行ってもビートルズやビーチボーイズやザ・フーの劣化コピーですが、いつの時代も喜んで時代遅れを引き受けてきた音楽であり、常に一定の需要を保ちながら生き残ってきたジャンルです。*4
【Girlfriend】
ものすごく雑にパワーポップの歴史を紐解きましたが、要するに言いたかったのは、Girlfriendが素晴らしいアルバムであり、このジャンルを語る上では外せないということです。
1991年というのはすごい年で、「Nevermind」「Ten」のグランジ勢に加え、「Metallica」「Screamadelica」「Loveless」に「Innuendo」と、バンド名を記す必要が無い名盤が各ジャンルで連発されていますが、それらとも全く劣らない90年代を代表する作品だと思います。
マシュー・スウィートは86年にデビュー作「Inside」、89年に「EARTH」と2枚のアルバムをリリースしましたが、いずれもセールスはパッとせず。個人的に両作とも、丁寧ではあるが、パンチ不足っちゃそうなのかなーというのが印象です。
そこから生まれた会心の一作。何が良いって、音のバランスが素晴らしい。ざらっとしたギターに絡む甘いメロディ。歌を中心にしつつも、生々しい音作り。
また、中川五郎氏の日本版の解説に書かれていますが、1・2作目よりもドラムが格段にかっこよくなった。ギターはテレビジョンのリチャード・ロイドとルーリードのサポートだったロバートクインが脇を固めており、解説から引用すると、
要するにマシューはこのサードアルバムのレコーディングをドラム/ベース/ギターのもっとも基本的な“生の”ロック編成で貫いているのだ。…だからこそ“ドント・ビー・アフレイド・トゥ・プレイ・イット・ラウド”と自信を持って言える見事なロックアルバムに仕上がったのだと思う。
ということです。
歌詞はストレートなラブソングや失恋の歌が並んでおり、 2ndアルバム発売後、離婚や契約破棄など、色々と苦労してきた思いが滲みます。
以下、各曲に一言ずつ。
ノイズが入ったり、一瞬曲が止まったりとサイケデリックな変化球風でありながらも、軸はシンプルなギターロック。
We are all counting on his divine intervention
「神聖な干渉を待つ」とは、ギターロックの可能性を指していると考えるのは深読みでしょうか。
2. I've Been Waiting
ギターの瑞々しいこと。イントロが一瞬スピッツの「群青」にも似ている。フォーク風味でサビのコーラスで和む。
PVは日本のアニオタであるマシュー・スウィートの趣味が炸裂。好き過ぎて左腕に入れ墨まで入れたというラムちゃんが登場するカオスっぷり。
3. Girlfriend
タイトルトラック。歪んだギターがキャッチー。後半のファンキーな展開が格好いい。
4. Looking At The Sun
芋臭いAメロからすっ飛ぶサビに涙腺が緩む。ミドルテンポの優しいポップス。
5. Winona
ペダルスティールギターが歌いまくるカントリー調なバラード。女優Winona Ryderへの一方的な思いを語り続ける。
6.Evangeline
イントロから繰り返される、心地よいリズムギターと、ダサさとエモさの境界をうろうろし続けるリードギター、力強いドラム。最後のソロが泣ける。
Matthew Sweet - Evangeline - original - YouTube
曲終わりに、レコードのB面さながら、針の音がして入れ替え作業のSEが入る。
7.Day For Night
ブルージーなギターが響くラブソング。幻想的な感じ。
8.Thought I Knew You
歌い出しがR.E.MのLosing My Religionにも似ている気がする。もの悲しいアコースティックなバラード。
9. You Don't Love Me
アコギにペダルスティールギターにピアノでカントリー調。マシュー・スウィートの繊細な歌声の良さが際立つ。
10. I Wanted To Tell You
軽快なアコギのカッティングから入る爽やかなギターロック。
11. Don't Go
もの悲しく歪むギターが印象的な別れの歌。
12. Your Sweet Voice
何重にも重ねたボーカルとコーラス。良メロ。ノスタルジックな雰囲気。
元々ここで作品は終わりだったらしく、もう一度レコードの音が。
13. Does She Talk?
ここからボーナストラック的な位置づけ。ブルージー。延々演奏が続くかと思いきやぶつ切り。
14. Holy War
珍しく大きなテーマが歌詞に。シンプルなロックナンバー。フレッド・メイハーのドラムがかっこよい。
15. Nothing Lasts
ほぼアコギ弾き語り。曲名はアルバムの元々のタイトル候補。切ない虚無感を美メロに乗せる。