Revueの日記

Revueの日記

歌詞の解釈やライブレビューなど、好きな音楽の話を主に書いていきます。Mr.Childrenが中心になると思います。

【Base Ball Bear】光源 残酷なエバーグリーン

 2017年4月12日発売の7thアルバム。

小出祐介氏の世界観とメッセージが丹念に描き込まれた6th「C2」や5th「二十九歳」に対し、今回は詩も音もゆるーく脱力していて、リラックスして楽しめます。

もともと彼らが持っていたシティポップ感が、ギター湯浅の脱退によってよりストレートに出てきたのは間違いないでしょう。ギター縛りの中でギリギリを表現しようとする悲痛な攻撃性が印象深かったC2とは対照的です。

また、4th「新呼吸」以降、虚構の青春を演じるよりも「真顔の自分らしさ」を求めてきた彼らの世界観の延長線上にあるとも言えます。この真顔っぷりはやっぱり最近のベボベらしくて魅力的です。

 

音に関して言うと、とにかくベースの関根さんが雄弁。ドラムの繊細な音色との絡みで十分お腹が満たされるので、ギターが難しいことをやる必要がない。「ギターがおまけ」になったベボベの新境地。

具体例が思いつかないのですが、イケてるツーピースバンドってこういうことをやってるんだろうな、と思いました。あるいは、スリーピースで言えばやっぱりトライセラとかペトロールズとか。

 

ベボベと青春】

小出氏からすると、青春とは「突然クラスメイトから無視された学生時代」であり、彼らを見返したいとの一心で「偽の『青春』を歌うロックバンド」を続けることでもありました。*1

その精神の空虚さに小出氏が気付いたのが最初の武道館公演。「もう一度自分を見つめなおさなきゃ」と、3.5th以降のベボベは青春から遠ざかっていきます。

ところがC2の歌詞製作時に、再び青春のモチーフが現れた。そこで小出氏は、「どれだけ青春の清算を図ろうとも時間は戻せないし、あの頃に『起き得たこと』を再現することはできない」という考えに行き着く。

 

C2→ベスト盤という最高のタイミングで湯浅が抜けたことも含めて、過去と現在の自分を、あえて青春というフィルターを使うことで相対視する。

 

青春を取り戻したいとか、乗り越えようとするのではなく、消えない光を対象化し、今の自分との距離を描くことで、時間経過の奥深さを捉えようとする。それが、この「光源」です。

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【並行世界に思いを馳せる第二の青春】

C2より、「どうしよう」の一節。

青春が終わって知った 青春は終わらないこと

ジャケットが象徴するように、光源と今の自分が二世界に別れたまま「あり得たかもしれない自分」を想像する、大人になった主人公の視点が貫かれています。

大人になっても青春に悩まされ続ける。そんな自分を肯定も否定もせずに、有り体に描写しているとも言える。

このスタンスを希望と捉えることもできるでしょう。「二十九歳」でアルバム一枚をかけて立ち向かった「苦い青春の呪い」は、否定すべき物でも乗り越えるべき物でもなく、自分の存在そのものなんだと。そこに縛られる自分に歪さを感じる必要はない、という自己肯定なのかもしれません。

 

【青春に対する私見とアルバムの感想】

個人的に、青春とは「まだ出会っていない自分の理想」を追い求めることだと思っています。理想の女の子でも良いし、理想の音楽でも、理想の映画でも良い。

どこかに自分にぴったりの存在がいるはず。まだ自分が世の中の真実を見出せてないだけ、という妄想。


「社会で生きる」とか「大人になる」とは、そんな妄想に見切りを付けて、現実と向き合うことです。

 

とはいえ大人になっても、CDは買い続けているし、「これが人生ベストになるのかも」と期待しながら映画館に足を運ぶ自分がいる。これだけ過去の名作がアーカイブされた時代に、なぜ新作を聞くのかと言えば、それは、自分の理想形にアクセスできるかもしれないという開けた可能性に対して、年齢に関わらずワクワクできる行為だからです。

 

だから、自分にとっても小出氏が描く「青春の継続」というテーマは腑に落ちる部分もあります。

 

しかしながら、聞き込んでいくうちに次第に思い始めたのは、「いつまでも青春し続ける」ことは、案外簡単じゃないということ。大人になればなるほど、光源と自分との間にある現実の真っ暗闇を意識せざるを得ない。小出氏が武道館公演で感じたように、頭上の光ばかり見ていても、足元の現実は変わらないと。

 

自分自身、例えば音楽や映画に使ってきた時間とか、人生について考えを巡らせると、そこに潜む虚しさに全く無自覚ではいられないのも事実です。

そういう意味で、これからも確実に自分を縛り、人生の一部を浪費させ続けるという「青春」の「残酷さ」が、隙間多めの音や歌詞の中に眠っている気がする。

 

このアルバムが描き出す「永遠に手が届かない光源との距離感」=「空っぽの空間性」が、のんべんだらりとした「青春」を送る今の自分にナイフを突きつけているように思えて、切なく、苦しくなった、ということは付言しておきたいです。

言い換えると、「悲しいけど青春からは逃れられない」という大人のほろ苦さとかやるせなさが、時間経過と共にどこまでも広がる空間性として表現されている。

 

「いつまでも続くこと」を良くも悪くも受け入れてしまった大人のつらさ、「残酷なエバーグリーン」が形になった一作だと思います。

 

【結び】

「二十九歳」や「C2」は鑑賞後「こいちゃん大変だなー。がんばれー」という気持ちになりましたが、光源はまさに自分自身の問題として心に刺さりました。

 

二十九歳は色んなギターロックを詰め込んだ幕の内弁当ではあるものの、主題である「呪い」は小出氏の内面吐露的な側面が強く、大衆性から遠ざかっていったのは否めない。C2も、あまりの煮詰めっぷりゆえ、毎日聞くのはどう考えてもしんどい作品でした。

対照的に、今作は最近流行りのオシャレポップス、ドライブミュージックにも使えるようなサラッとした仕上がりです。

なのにちゃんとこうやって「刺さる」、これは表現としてなかなか高い領域に達しているんじゃないかとも思います。

 

 【各曲あっさりレビュー】

①全ては君のせいで

邂逅するはずのなかった「君」=「光」と、掛かるはずのない橋の上で一瞬すれ違うパラレルワールド。シンセが鳴りっぱなしで、曲全体が夢の中にいるような感じ。今作の主人公はこの経験に心を捕らわれ続ける。
Base Ball Bear - すべては君のせいで

現実と夢が交わるようで交わらず、でも最後のサビで本田翼=夢がベボベ側に現れて音楽に乗ってくれる、という映像。Darlingに出てくる琥珀色のリボンを付けている。

「本田翼が可愛いだけのPV」とよく揶揄されますが、今作のテーマを考えるとまさにそれで良いんだと思います。本田翼が象徴する「意味」は受け手がそれぞれ考えれば良くて、とにかく綺麗なイメージだけがこの歌の主人公のように焼き付けば十分だと。


ベボベの背中越しに光源が輝くこのアー写とも同じです。「自分がスターになれるわけじゃないが、光を求めてしまう」という目線。

 

②逆バタフライ・エフェクト

花を摘んで花束にする=過去の選択の集積。

「玉虫色の未来」という表現が良いです。エフェクトを多用しておらず、今の3人が鳴らせる音、という感じがします。トライセラっぽい。

自分こそだよ  運命を愛しな

突き放した感じもある。

決められたパラレルワールド

この現実をどう捉えて生きるべきか、ここから一歩先の「結論」は、このアルバムの中ではあえて示されない。

 

③Low way

「不思議な夜」のパラレルワールド。真夜中を一人で歩く。バンドの足腰の強さとホーンの絡みが良い。全然ギターいらねえじゃん、と思っていたら後半カッコいいソロが入ってくる。

 

④(LIKE A)TRANSFER GIRL

「Transfer Girl」のパラレルワールド。カッティングにエレピ。Bメロが特に好きです。サビも、昔のベボベにこの広がりは出せないよなあと思うとグッとくる。

 

寛解

ギターもドラムもベースもエレピも全部気持ち良い。ちょっとだけペトロールズな感じ。あるいは東京事変の「体」とか。今作だとこれが一番好きです。

 

⑥SHINE

「死ね」でもある、ストレートなギターロック。寛解からの落差は狙ってるんでしょう。1番で学生が青春の光に向かって突っ走って、2番で社会人になって絶望する。それでも最後に1番の歌詞を繰り返す。サビ頭の歌詞はどうしたって岡村靖幸を連想してしまう。

 

⑦リアリティーズ

辛い青春ゾンビからの開放。「桐島、部活やめるってよ」を思い出した。青春に苦しんでいた昔の自分に、大人になった自分が「正解はピラミッドの外にある」と諭す。

 

⑧Darling

もともとアルバムの「結論」めいた2番の歌詞があったのを削って、1番の繰り返しにしたらしい。小出氏自身が語っていますが、琥珀は時間の象徴。まさしく「あったはずの物語」に想いを馳せながら、幾億秒という時間を「全ては君のせいで」の中の「一瞬」に消化し直す綺麗なエンディング。

マテリアルな僕を琥珀色のリボンで撫でていく

あの日のように 一秒で

青春は自分の過去・現在・未来を貫く光のリボンであり、時の女神であると。新呼吸でも「同じことの繰り返し」という命題には挑んでいましたが、あちらは「1日」というスパンで人生を捉えていた。今はそれよりも圧倒的に余裕があって、懐の広さとか射程の長さに大人としての成長を感じる。

*1:「バンドを演じる」、それ自体も相対化してます、みたいな優等生な雰囲気があんまり気に食わず、正直この頃のベボベは苦手でした。もっと素直に歌えば良いのに、という。